今は夏休み。
すがすがしいある朝、あずさと吹奏楽部仲間が登校している。
正門前の花壇で、おばあさんが花の手入れをしている。
あずさ 「おはようございます。」
おばあさん「あら、あずさちゃん。今日も部活動かしら?」
あずさ 「うん、来週が発表会なの。あっ、よかったらおばあさんも聴きに来て。これチラシです。」
チラシの日付は2006年8月15日
おばあさん「おや、うれしいわあ、こんなおばあさんを誘ってくれるなんて。」
友達A 「いつも学校のお花をきれいに手入れしてくれているおばあさんだもの、吹奏楽部全員で歓迎します。」
おばあさん「ほんとにありがとうね。おら、この日付は…」
友達B 「わかります?終戦記念日にちなんで、平和を願うコンサートにしようって、みんなで考えたんです。」
おばあさんの表情が一瞬曇るのを不思議そうに見つめるあずさ。
部室。
友達C 「ねえ、あずさ。昨日預けたみんなの楽譜、見あたらないんだけど、どこに置いてあるの?」
あずさ 「あっ、しまった。教室に置いてきちゃったぁ。ちょっと待ってて、取ってくるから。」
友達A 「相変わらずそそっかしいわねぇ、あずさ。」
友達B 「早くしなさいよ、みんな待っているからねぇ(笑)」
和やかな笑いの中、急いで教室へ向かうあずさ。
あずさ 「あったあった。これこれ…」
そのとき、突風が吹いて、楽譜が窓の外へ飛んでいきました。
あずさは急いで後を追いかけました。
ベランダへのドアに「ベランダへの出入り禁止! 生活委員会」の張り紙。
両手、両足、口をフルに使って楽譜を捕まえるあずさ。
最後の1枚に手が届きそうになったとき、また突風が吹く。
思わずベランダから身を乗り出すあずさ。
ベランダの手すりにひびが入り、あずさは落下する。
「きゃぁぁぁぁー!」
ドスン!
ゆっくりと目を開けるあずさ。
青空が見える。
少女がのぞき込む。
さつき「大丈夫?」
あずさ「わたし…生きている?!」
あずさはウサギの飼育小屋に山盛りに集められた干し草の上に落下していた。
さつき「あなた、屋根に上って何して(い)たの?」
あずさ「屋根の上って…」
ベランダを見上げるあずさ。
そこには木造平屋建ての校舎の屋根が見えるだけ。
あずさ「あれ?私、3階のベランダから落ちて…」
さつき「さんがいの…べら…なに?ねえ、あなた、変わった服着てるね。」
あずさ「服…?えっ?」
あずさ、少女の見慣れない服と自分の制服を見比べて、戸惑う。
さつき「大丈夫?屋根から落ちて、頭を打ったの?あっ、あなた東京から疎開してきた子でしょう。お母さんが言っていたもの。東京に空襲が何度もあるから、埼玉に縁故疎開してくる子が増えてきたって。この学校の生徒の親戚なのね。ねっ、そうでしょう?」
あずさ「空襲…疎開…えっ、何を言っているの?この人…」
さつき「いいなぁ、東京の人は。着る物もおしゃれだなぁ。あっ、私さつきって言うんだ。あなたは?」
あずさ「私、あずさ…、私…東京じゃなくて、ずっと埼玉に…春日部に住んでいる…」
さつき「えっ?そうなの…」
あずさ「さつきちゃん、ここはどこなの?」
さつき「埼玉県…春日部市だけど…」
あずさ「そ、そんな馬鹿な。今日は何日?」
さつき「8月○○にち…昭和20年よ。」
あずさ「しょっ、昭和20年…!?」
周りの景色はのどかな農村風景。
あずさの頭は混乱する。
セミの声が鳴り響く。
さつき「あずさ…さんだっけ?やっぱり頭を打ったんじゃないの?様子が変よ。」
あずさ「私、平成18年8月○○日に、教室の3階ベランダから落ちたの。昭和20年なんかじゃないわ!さつきちゃん、うそつかないで!」
さつき、あずさの取り乱しように戸惑っている。
あずさ、さつきの肩に両手を伸ばして、
あずさ「平成18年よ、わかる?西暦2006年!昭和20年なんて、えーっと、西暦では1945年でしょう。61年前じゃない。誰が信じるの、そんなうそ。」
さつき、心配そうにあずさの頭を両手でなでながら、
さつき「あずさ、あなた屋根から落ちて、頭が変になっちゃったのね。かわいそう。」
「カラーン、カラーン」
始業の手持の鐘がなる。
【以下 略】