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やぶられた台本(シナリオ) −第2幕− 舞台設定
箱森 「期間は二週間。台本は四日以内に仕上げよう。それから、大道具も作らな
ければな。誰がやる?」
伊藤 「よし、シナリオは僕たちが引き受ける。舞台は沖縄。太平洋戦争。」
箱森 「ああ、さっき調べていた、これか?」
伊藤 「うん、沖縄での戦争はまだ詳しく分かっていないことがたくさんあるんだ。
だからぜひ劇を通して訴えかけてみたいんだ。」
伊藤、メモ用紙を取り出して、読む。
伊藤 『昭和一六年一二月八日、日本軍のハワイ真珠湾攻撃に始まった太平洋戦争は、
つかの間の優勢ののち、翌一七年に早くも日本軍は劣性にたたされた。その
後、太平洋上の諸島を制圧したアメリカ軍はその圧倒的戦力で日本本土攻撃
を企て、その手始めに本土南端の島沖縄を空と海から完全に包囲した。まっ
たく孤立状態となった沖縄本島に向けて、アメリカ軍は、昭和二十年三月二
四日未明、激しい艦砲射撃を開始した。』
伊藤、みんなの顔を見ながら、
伊藤 「映画『ひめゆりの塔』の冒頭説明だ。」
金本 「艦砲射撃って?」
秋里 「米軍は沖縄を空と海からの二重攻撃で制圧しようとしたんだ。陸に向かって
戦艦から大砲を撃ち込むんだ。山の形が変わるぐらいすさまじかったそうだ
よ。」
富永 「舞台は沖縄にアメリカ軍が上陸して、日本軍が完全に追いつめられていった
昭和二十年六月。この頃までには沖縄の民衆のほとんどの人達は防衛隊やそ
の他の名目で戦争に参加させられていたの。もちろん高等女学校の学生たち
もみんな従軍看護婦として負傷兵の看護に回されていた。」
市村 「ねえ、従軍看護婦なんて言わずにひめゆり部隊って言った方がみんなには分
かりやすいんじゃない?」
金本 「いや、僕はこのままの方が良いと思うな。実際には沖縄の学生は全員戦争に
参加させられたんだから、ひめゆり部隊と特定しない方が良いと思う。」
伊藤 「このまま行こう。」
富永 「戦況がいよいよ厳しくなってきたとき、衣料品もとうとう底をついてしまっ
たの。これ以上医療行為が出来なくなったとき、従軍看護学生たちは任務を
解かれた。」
渡辺 「任務を解かれたからって、決して安全なところへ行かれるわけではなかっの
よ。沖縄本島は既にほとんどアメリカ軍の占領下に置かれていて、どこにも
安全な場所なんてなかったの。それに、ろくに食べるものもないし、言って
みれば見捨てられたようなものだったの。」
金本 「劇の舞台は一二人の女学生と一人の教師が洞窟に逃げ込んだところから始ま
るんだ。」
いくつかのグループに分かれて、身体を寄せ合うように身を縮ませている。 諏合 「あーあ、お芋さん、蒸かして食べたいなぁ…。」 菊地 「由紀子さん、あなた、また食べ物の話?」 諏合 「だって、おなかペコペコなんだもん。」 篠 「そういえばもう三日もろくに食べてないものね。あーあ、わたしもお芋さ ん食べたい。」
寺 「私ね、おばあちゃんが作ってくれたすいとん、まずいって食べなかったこ とがあ 土岐 「何だか、私たちって食べ物の話をしていると元気になってくるわね。」 一同、含み笑い。 臼倉、ポケットから包みを取り出して、 臼倉 「乾パン、これだけだけど…、みんなで食べよ。」
一同、臼倉のまわりを取り囲む。 佐野先生はみんなを笑顔で見守っている。 松山 「美穂さん、あなたこれ、どうしたの?」
臼倉 「軍から解散命令が出た時ね、髭を生やした兵隊さんが最期の命つなぎにしなさ 佐野先生、身を乗り出して、 佐野 「美穂さん、それって、眼鏡をかけた、あご髭の人じゃない?」 臼倉 「あ、はい。」 佐野 「ああ、やっぱりテシさんだわ。」 篠 「先生、テシさんって?」
佐野 「私たち家族に、とっても良くして下さった方でね、山部隊の第二四師団に配属 菊地 「北海道出身って、アイヌの人ですか?」
土岐 「おじいちゃんが言っていました。北海道から来た部隊の中にはアイヌの人が何 佐野 「そう、おかしいわよね。日本国民同士がいじめ合うなんて。」 斉藤 「そうそう、今は全国民が一丸となって敵国を倒さなくちゃ。」 佐野先生、複雑な表情になる。 諏合 「ねえ、先生…。」 諏合、この乾パンをみんなで分けて良いかと尋ねる。 一同、生唾をごくりとのみ、佐野先生の返答に期待する。 佐野 「美穂さんが良ければ…。」 臼倉、うなずく。 一同、歓声を上げてみんなで分け合う。 座りながら、大事そうに口に運ぶ。 涙が出るほどおいしい。 臼倉、佐野先生の分を届ける。 佐野先生、あなたが食べなさいと言う。 臼倉、それはいけませんと断る。 佐野先生、乾パンを手に取り、半分に分ける。 半分は自分に、半分は臼倉に渡す。 感謝でいっばいの臼倉。 舞台正面へのスポットライト(青)が消える。 舞台袖の照明がつく。
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